参加型開発と国際協力―変わるのはわたしたち
ロバート チェンバース
明石書店 2000/06
本書は著者も前書きで述べているように、1983年に出された有名な、’Rural Development: Putting the Last First‘ の続きにあたる本です。
前回が ‘Last First’ であったのに対し、今回は ‘First Last’ となっていることでもわかるように、これは同じ問題を14年を経てなおかつ連続して扱った結果のタイトルと言えます。開発関係における問題を解くための、筆者の絶え間無い追求から生まれた、一種逆説的とも思えますが、その実、非常に鋭く自己を含めての、開発に係る側に反省を迫る啓蒙の書でもあります。
1983年の前書は、そのタイトルが示すとおり ‘Last First’ つまり、最後に置かれる地域住民を先頭に物事を考え、動かそう、という主題でした。今回は、既に予測がついたでしょうが、 ‘First Last’ 、開発で先頭に立ってきた、我々援助する側(政府・非政府、中央・現場、研究者・普及員を問わず)が、後ろに退こう、という主張です。
この二つ、一見するとまったく同じことのようにも聞こえますが、実際に実行しようとすると何が起こるでしょうか?「地域住民を先頭に」これはレトリックとしても非常に sounds nice であり、誰もが「言葉として」は受け入れるでしょうし、また多くの援助関係者は、客観的に見た実態はどうであれ、「我々は実践している」と主張するでしょう。
では今回の主題を簡単な言葉で言い表すとするとどうなるでしょうか?筆者は単に相対的に後ろに下がれ、と言っているだけではありません。むしろ私には「地域住民から学んで一から出直せ」と言っているように聞こえます。単なるレトリックではなく、我々援助関係者の今までの考え方、態度こそが、援助の効果を上げられなかった元凶であり、正すべきであると言うのが筆者の主張です。
さて援助関係者は一般的には善意の人です。それがいきなり「おまえが悪い」と言われたらどう反応するでしょうか。うろたえるか逆上するか。そんな人が多いのも事実でしょうし、また PRA 等の導入で、住民主体が叫ばれている今ですらそうした実態があるからこそ、筆者がこのような書を世に問わざるをえなかったのではないかと思います。
ただ筆者の書き方は、一部の ODA 批判などに見られるような無見識、そして pesimistic な物とは違います。筆者は地域住民を信じているのと同じように、援助関係者をも信じているのです。そこのところが他の援助批判本とはまったく異なる点であるし、厳しい指摘の中に、ほっとさせる人間的な温かさを見出すことができます。
私は本書で筆者が行っている主張、提案を全面的に支持しています。
本書を読んで理解されるには、ある程度開発に携わった経験が必要でしょう。これから開発の現場に出ようという人にはまだ本書が主張するところの意味がわからないかも知れません。
しかしフロイドからディケンズ、そしてカオス理論まで出てくる開発関連書は他には無いだろうなあ。